第2回:「AIを使った?」ではなく「どうやって良くした?」


・10秒でできた「完璧な案内文」が、なぜかちょっと寂しい理由
・「みんな肩がバッキバキ」をAIに伝えたら、文章がガラリと変わった?!
・「AIを使った?」ではなく、「どう良くした?」と聞いてみる
■ 「早く終わらせること」がAIの本業??
「これを使ったら、今まで3時間かかっていた作業が、たったの5分で終わりました!」
「AIで業務効率が80%アップ!」
インターネットや雑誌を開くと、毎日のようにこんな威勢のいい数字が飛び交っていますよね。
たしかに、面倒な作業がパパッと片付くのはありがたいことです。
浮いた時間で、お茶の一杯でもゆっくり飲めるなら、それに越したことはありません(^^)
でも。
「時短!」「効率化!」
そんな言葉を聞き続けていると、
「なんだか、タイムトライアルの競争をさせられているみたいだな……」
「早く終わらせることばかりが、そんなに大事なのかしら?」
そんな、ちょっとさみしい気持ちにもなったり…(^_^;)
今日は、そんな時に効くお話です。
■ 10秒でできた「非の打ち所がない案内文」
たとえば、こんな場面をイメージしてみてください。
週末に、職場で「ちょっとしたお疲れさま会」を開くことになりました。
幹事を任されたのは、若手の後輩です。
忙しいみんなに気持ちよく参加してもらおうと、案内メールを作ることになりました。
そこで後輩は、話題のAIにこうお願いしてみます。
「金曜日に職場で開くお疲れさま会の案内メールを、みんなが参加したくなるように書いて」
エンターキーをポン。
すると、ものの10秒で、こんな文章が出てきました。
「社員各位
業務の円滑な推進および相互理解の深化を目的として、下記日程にて親睦会を開催いたします。
日頃の労をねぎらい、部署の垣根を越えた有意義な意見交換の場としてご活用いただければ幸いです。皆様の積極的なご参加を心よりお待ちしております」
誤字脱字もありません。
目的も明確。
文章としても、どこに出しても恥ずかしくない。
「おぉ……。ゼロから考えたら15分くらいかかりそうなのに、10秒でできちゃった!」
後輩は、ちょっぴり誇らしげです。
ところが。
そこへ、通りかかった先輩が画面をのぞき込みました。
「これ、もしかしてAIに書かせたの?」
その瞬間、後輩の胸がドキッとします。
「あ、怒られるのかな……」
「サボって手抜きしたと思われちゃったかな……」
責められたような気がして、身を縮こまらせてしまうかもしれません。
そして次からは、AIを使ったことを隠すようになってしまうかもしれません。
・・・・
でも、もし先輩が、こんな風に声をかけたらどうでしょう。
「お、AIに手伝ってもらったんだね。早いなぁ!」
「で、あなたはこの下書きを見て、AIにどんな風にお願いし直したの?」
……ちょっと、質問の意味が変わりますよね。
■ 「AIを使った?」から「どう良くした?」へ
後輩は、もう一度画面を見つめます。
先輩が聞いているのは、
「AIを使ったかどうか」
ではありません。
「AIが出してきた文章に、自分の頭で何を加えたのか?」
ということなんですね。
そこで後輩は、画面の文章を見ながら、職場のみんなの顔を思い浮かべます。
そういえば今週は、大きな納品があった。
みんな毎日パソコンとにらめっこしていた。
「もうひと踏ん張りだ~」と、肩をぐるぐる回していた人もいた。
隣の席の同僚は、
「今週が終わったら、おいしいものでも食べて、思いっきり息抜きしたいですね」
なんて笑っていた。
そこで、後輩は気づきます。
「……『相互理解の深化』なんて、うちのみんなは求めてないよな(^_^;)」
「今週みんなが欲しいのは、もっと単純な『お疲れさま』なんじゃないかな」
そして、AIにもう一度お願いしてみます。
「もっと肩の力を抜いた、温かい言葉遣いに書き直してください。
・今週は大きな山を越えたばかりで、みんな疲れているので、ねぎらいの言葉から始める
・仕事の話は一切抜きで、パーッと息抜きする会だと伝えたい
・お酒が飲めない人や、最初の1時間だけのちょこっと参加も大歓迎にしたい」
すると……。
今度は、こんな文章になりました。
「みんな、今週も本当にお疲れさまでした!
大きな山をひとつ越えて、みんな肩もバキバキですよね(^_^;)
金曜の夜、おいしいご飯でも食べながら、仕事の話は抜きでパーッと息抜きしませんか?
もちろん、お酒が飲めなくても、最初の1時間だけのちょこっと参加も大歓迎です。
肩の力を抜きに、ふらっと寄ってくださいね」
どうでしょう?
最初の文章と比べると、ずいぶん印象が変わりましたよね。
「先輩、こんな風に条件を足して言い直してみたんです!」
そう言って画面を見せると、先輩もニッコリ。
「うん、すごく良くなったじゃない。みんなの顔が浮かぶよ」
そんなメールなら、
「幹事さん、分かってくれてるなぁ」
「ちょっと顔を出してみようかな」
と思う人も出てきそうです。
AIが10秒で作った文章を、そのまま送る。
それも、もちろんできます。
でも。
「ここ、ちょっと違うんだよな」
と立ち止まって、自分の知っている現場のことをAIに伝え直す。
そこに、もうひとつの面白さがあるんじゃないでしょうか。
■ AIの最初の答えは「無難な70点」
AIが最初に出してくれる答えは、いわば「無難な70点」です。
文法の間違いもない。
大きな失敗もしない。
誰かを怒らせるようなことも、なるべく避けてくれる。
とても便利です。
でも、そこには、
「目の前の人が今、どんな顔をしているか」
までは入っていません。
AIは世界中の言葉を知っています。
でも、
「今週、この人たちは本当に疲れている」
「隣の席の人は、お酒が飲めない」
「この職場では、かしこまった言葉より、ちょっとくだけた言い方のほうが喜ばれる」
……そんなことは、こちらが教えてあげなければ分からないんです。
だからこそ。
AIが出した「70点」を、
「はい、これで完成!」
として終わらせるのではなく。
「うーん、うちの場合はちょっと違うな」
「この人たちなら、もっとこうしたほうがいいな」
と、自分の頭で考えてみる。
そして、その考えをAIにもう一度伝える。
すると、
70点のたたき台が、
100点になったり、
120点になったりする。
この「育てていく時間」が、AI時代にはけっこう大事なんじゃないかなと思うんです。
■ 「AIを使った?」だけでは、もったいない
もし職場で、誰かがAIを使って文章を作っていたら。
「AIを使ったの?」
と聞くこと自体が悪いわけではありません。
でも、それだけで終わってしまったら、ちょっともったいない。
それよりも、こんな風に聞いてみるのはどうでしょう。
「AIに最初は何て言わせたの?」
「そこから、どこを直したの?」
「どうして、その条件を追加したの?」
すると、AIを使った人の頭の中から、いろいろなものが出てきます。
「最初の文章がちょっとよそよそしかったから、もっとくだけた言葉にしてってお願いしたんです」
「みんな今週ヘトヘトだったので、ねぎらいの言葉を入れてみました」
「お酒を飲めない人もいるので、そのことも伝えたほうがいいかなって」
……どうでしょう?
こうやって聞いてみると、その人がAIを「どう使ったか」だけではなく、
「何を大切にしている人なのか」
まで見えてきますよね。
■ AIに仕事を奪われるのではなく、「考える時間」を取り戻す
AIを使うと、仕事が早く終わります。
これは、とてもありがたいことです。
でも、せっかく時間ができたのなら、
「早く終わった!やった!」
だけで終わらせるのは、ちょっともったいない気もします。
その浮いた時間で、
「いや、ちょっと待てよ」
と、AIの文章を眺めてみる。
「うちの会社では、こんな言い方しないよな」
「この人に、この言葉はちょっと冷たいな」
「そうそう。伝えたかったのは、こっちなんだよな」
そんな風に、もう一度自分の頭を使ってみる。
AIが作業を短くしてくれた分、
「考える時間」を取り戻す。
そんな使い方も、あっていいんじゃないでしょうか。
■ 「AIを使った?」ではなく「どう良くした?」
これから先、AIはますます身近な道具になっていくと思います。
文章を書く。
資料を作る。
アイデアを出す。
メールを考える。
そんなことをAIに手伝ってもらう場面も、どんどん増えていくでしょう。
そのときに、
「AIを使ったか、使っていないか」
だけを気にするのではなく。
「AIが出してきたものを、あなたはどうやって良くしたの?」
そんな問いかけがあったら、ちょっと面白いと思うんです。
AIの答えをそのまま使ったのか。
それとも、
「いや、うちはそうじゃない」
と一度立ち止まったのか。
「この人には、こう伝えたい」
と考えたのか。
「この部分は、もう少し優しくしたい」
と工夫したのか。
その小さな「ひと手間」の中にこそ、その人らしさが宿ります。
効率化の数字を競い合うレースに、無理して息を切らす必要なんてありません。
浮いた時間があるのなら。
画面に向かって、
「おいおい、そうじゃないんだよな(^_^;)」
と苦笑いしながら、もう一度、自分が見ている景色をAIに伝えてみる。
AIに仕事をやってもらう。
そして、その仕事を「自分らしく良くする」。
この二つをセットにしてみる。
そんな付き合い方なら、AIという新しい道具とも、ずいぶん気持ちよく付き合っていけそうな気がします(^^)

Q:AIが作った文章なら、そのまま使ってもいいんじゃない?
A:もちろん、内容によってはそのまま使えることもあります。
でも、「ここは自分の職場の雰囲気と違うな」と感じたら、そこをAIに伝えて直していくことで、より自分たちらしい文章にできます。
Q:AIを使うなら、やっぱり早く終わらせることが大事?
A:
早く終わることは、もちろんAIの大きなメリットです。
ただ、時間を短くするだけでなく、AIのたたき台に自分の考えを加えて「より良くする」ことも、AIを使う大切な面白さなんです。
Q:部下や後輩がAIを使って案内文や書類を作ってきた時、実務ではどんな風に声をかけると良いですか?
A:まずは「作成が早くて助かるね!」と受け止めた上で、「この下書きに、あなたならではの配慮や現場の状況をどう足してみた?」と聞いてみてください。「AIを使ったかどうか」を気にするのではなく、「どんな工夫を加えたか」を尋ねることで、相手の気配りや現場を見る目を自然と育てるコミュニケーションになります。
Q:実務の案内文やメールを作る時、具体的にどんな現場の情報をAIに足すと良くなりますか?
A:日時や用件といった基本情報に加えて、「読み手の今のリアルな状況(繁忙期で疲れている、初めてで緊張しているなど)」や「普段の職場や相手との関係性(フランクにいきたい、丁寧にねぎらいたいなど)」を足してみてください。AIが持っていない現場のリアルな温度感をひと言添えるだけで、事務的な連絡から、相手の心にきちんと届く仕事の文章に変わります。

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