【 「試食すればわかってもらえる」はホント? 】

デパートの地下食品売り場にある洋菓子屋さんが、新しいチョコレートスフレを開発しました。素材のチョコレートにこだわっており、少しほろ苦い、オトナの味わいの自信作です。

「実際に食べてもらえば、きっとこのおいしさが伝わるはず!」店長さんはそう信じ、店頭で試食をしてもらうことにしました。

売り子さんたちもがんばって、お客様に試食を勧めます。

『新作のチョコレートスフレです。どうぞ召し上がってみてください!』

その声にお客様も立ち止まり、新作のお菓子を試してくれました。

チョコレートスフレは飛ぶように売れて、試食作戦は大成功!・・・と言いたいところなのですが、現実はそんなに甘くありませんでした。

試食をしたお客様から返ってくるのは、なぜか「へえ~・・・」、「ふ~ん・・・」といった薄い反応ばかり。チョコレートスフレを買っていってくれるお客様も、予想以上に少なかったのです。

 

(おいしいのに・・・なんでだろう?)

店長さんは自信作のスフレが評価されなかったことが不思議で仕方ありません。

この新商品、見た目はどこにでもありそうなチョコレートスフレなのですが、使われているチョコレートは本場ベルギー産。カカオ

 

本来の香りを大切にした、本格的なチョコレートケーキです。

香りを楽しんでもらうため、あえて甘味を抑えてあるのですが、それが今回は裏目に出てしまったようなのです。

試食としてお客様に出せるのは、ケーキを小さく切ったもの。

わずかそれだけの量を、何の予備知識も無く味わったのでは、その素材の良さや香りの違いに気付かないお客様が多く、「ちょっと苦いチョコケーキ」としか評価されなかったのです・・・。

一般のチョコレートスフレと食べ比べをしてもらえば、その香りの違いはハッキリわかってもらえるのですが、試食にそれほどのコストをかけるわけにはいきません。

少しの量を食べてもらい、その違いをわかってもらうためにどうすればいいか・・・店長さんは知恵を絞りました。

【 「香りを味わって下さい」と、”味わうポイント”を伝えてしまう 】

(少し食べただけでは、何が良いのかわかりにくいのかも知れない。ならば、ココを味わってほしいというポイントを最初に伝えてみたらどうだろう)

店長さんはそう考えました。そして翌日から、お客様に試食を勧める時に、こんな言葉を付け加えるよう売り子さんたちに指示をしたのです。

『新作のチョコレートスフレです。本場ベルギーのチョコレートを使って、香ばしく仕上げてあります。この”香り”を味わってみて下さい』

昨日の誘い文句を少し変えただけです。しかし、これが大変大きな効果をもたらしました。

「あら、ホント。香りのいいチョコレートケーキね!」

「やっぱり”本場もの”は違うわね」

お客様から返ってきたのは、昨日と全く違う反応。

このチョコレートスフレを味わうポイントは”香り”だということを伝えたことで、お客様にちゃんとそこを評価してもらえるようになったのです。

そういう視点から見ると、これほど良い香りのチョコレートスフレはちょっと他にありません。

試食をした後にこのチョコレートスフレを買っていくお客様も多く、用意した個数はあっという間に売り切れてしまいました。

食べ物を評価するポイントは一つではありません。甘味・苦味・酸味・・・といった味わい、香り、食感・・・その他にもたくさんの評価ポイントがあります。

お店がこだわりを持っているところでも、お客様がそれに気付かないことだってあるでしょう。言われて初めて「あぁそうか」と気付くような特徴だってあるはずです。

だからこそ、「どんな所にこだわっているのか」、「どんな所を味わってほしいのか」というような『味わうポイント』を具体的にお客様に伝えておくと良いのです。

試食をして、香りを確かめてほしいのか、甘味を感じてほしいのか、それとも食感に感動してほしいのか・・・それをちゃんと伝えれば、お客様はそこを重点的に評価してくれるでしょう。

『味わうポイント』を伝えた上で試食してもらうと、そのおいしさがもっとちゃんとわかってもらえるのです!

【 ネットショップがサンプルを配る時にも・・・ 】

「味わうポイントを先に伝える」・・・これはもちろん店頭での試食以外でも使えます。

例えば、ネットショップでサンプルを送る時などにも。

注文を受けた品物をお客様の所に送る時、送料オーバーにならない程度に商品のサンプルを一つ、二つ付けて送っているお店は多く存在します。

新商品や、そのお客様がまだ注文したことが無い商品などをサンプルとして入れることで、新しい味に出会ってもらえるチャンスを作るというわけですね。

これはまさにネットショップ版の”試食”

そんな時にもこの文章作法は使えます。

例えば、商品を注文してくれたお客様に、新発売のマドレーヌをオマケで付けるとしましょう。そんな時、このような言葉を書いたメッセージカードを添えたらどうでしょうか。

 

『新作の紅茶マドレーヌです!人気のマドレーヌに香り高い紅茶を入れて、新しい味が生まれました。バターと紅茶の香りのハーモニーをぜひ、お試し下さい』

 

こんな風に『味わうポイント』を書いたカードを同封しておけば、お客様もこのマドレーヌのウリである「バターと紅茶の香りのハーモニー」をきちんと味わうことができますよね。

そして、このようなメッセージカードは、お客様とコミュニケーションを取る手段ともなります。

何も言わずにサンプルを入れただけでは、それはただのオマケとしか受け取ってもらえないかも知れません。

しかし、メッセージカードを入れておけば、そこにお客様とコミュニケーションが生まれ、売り子さんが店頭で試食を勧めるのと同様の効果が望めます。

お客様は、その商品を正しく味わうポイントを見落としてしまうかも知れません。

それはお客様にとっても、お店にとっても不幸なこと。

だから、ちゃんと『味合うポイント』を伝えておきましょう。

商品の良さをちゃんと味わってもらうことができれば、次回の注文につながる可能性は確実に高くなります。

店頭での試食でも、ネットショップのサンプル配布でも、お客様に試食をお勧めするような時は、ぜひ『味わうポイント』を教えてあげてください!